「九条の嬢ちゃんが、気に入らなければ。
 ……他に愛人を囲ってもいい」

「……!」

 親父の信じられない言葉に、オレは、目を見開いた。

 だって、それは。

 由香里と、アヤネの両方のキモチを踏みにじることじゃねぇか……!

「あんたは一体……!
 ……何を言い出しやがるんだ……!」

 風邪の熱なのか。

 それとも怒りなのか。

 よくわからねぇ、ぐらぐら煮え立つ熱さを感じながら、オレは言葉を絞り出した。

「そんな、汚ねぇ話なんざ、したくねぇ!」

「……ま。
 オトナの話だからな。
 ガキのお前には、理解しにくいかもしれないが。
 本当に好きなヤツと暮らす手段は、いろいろあるっていうことだ」

 悪びれもしない、気軽に聞こえる親父の一言が、オレのココロも踏みにじってゆく。

 なぜ、親父には。

 そんなことが、普通に言えるんだろう?

 そして、なぜ。

「……そんな話を、今、するんだ……」

 そう、つぶやくオレに、親父は目を細めた。