……速い。

 なんだって、この女は、こう、身軽なんだ!




 不器用な由香里のクセに、逃げ足だけは、こんなに早い。

 ばらまいたトングを、流しに放り込み。

 由香里は、勝手口から滑り出るように外に飛び出した。

 そして、そんな由香里を追いかけるのは、簡単なコトじゃねぇ。




「由……香里……っ!」


 ……だから、みっともねぇマネは、絶対にしたくないのに!

 少し走れば、すぐに息が切れる。


 こんなことでも心臓が持たねぇなんて。




「……情けねぇ……な」

 げほげほとむせ込みながら、もう一度名前を呼んで、ようやく由香里は気がついた。