「由香里!」

「あれ?
 あは?
 いや……あたしって何してんのかしらね?」

 アヤネよりも、さらに泣きそうに、涙をためて。

 ばらまいたトングを、不器用そうに拾って。


 それでも、なお。



 ………由香里は、笑ってた。



「雪。
 ごめ……っ!」

 そして由香里はごしっと、手で目をこすって、厨房の奥へ消えていく。

「由香里!!」

「音雪! 追いかけるの!?」

「悪りいかよっ!」

 右腕を掴んだアヤネを反射的に振り払って、オレは由香里の後を追った。

 このときは。

 由香里の涙ほど、ココロに痛いものはなかったから。





 ……アヤネの気持ちなんか、ちっとも考えずに。