「美央!」



後ろから聞こえたあたしの名前を呼ぶ声。


またドキンと胸が高鳴った。


一瞬で胸が熱くなって、火がついたみたいに全身に伝染する。



振り返ると、こっちに全力で走って来る風斗の姿があった。


風斗が……走ってる。


いつも無気力で、何事にも興味がなくて、ダルそうにしてたあの風斗が。


腕を振って、一生懸命な顔をして。


必死に足を踏み出して走ってる。


信じられなくて、思わず足が止まった。



「美央!」



はぁはぁと肩で息をする風斗。


表情は今までに見たことがないくらい真剣そのもの。



「な、なんで……?」



どうしてそんなに必死にあたしに向かって走って来たの?



「行くなよ」



「え?」



「佐古とクレープなんか食いに行くな」



えっ!?


思わず目を見開く。


それって……。



「美央は……俺と行きたいんじゃないのかよ?なんで佐古と行こうとしてんだよ」



「だ、だって……風斗が」



面倒くさいって、気分じゃないって。


あたしが誰と行こうが関係ないって言うから。



「俺は美央と行きたい。2人で……行きたい」



少し照れたように風斗が目を伏せた。


そしてあたしの目の前まで来ると、呆然とするあたしの腕を掴んで引っ張った。



「悪いな、佐古。そういうことだから、美央のことは諦めて欲しい。じゃあな」



グイッと腕を引かれて、そのまま校門を出る。


わけがわからなくて振り返ると、呆気に取られたまま呆然としている佐古君と目が合って。


曲がり角を曲がる瞬間ーー。


『負けたよ』


そんな佐古君の声が聞こえた気がした。