僕はひたすら彼の話を黙って聞いていた。
何も考えずに真っ白な状態で頭に刻み込んでいく。
途中口を挟もうとしたが、彼に失礼だと思い、冬樹の口が閉じるまで待った。
僕は会話とは言えない一方通行な話を聞かされていたんだ。
いや、違うか、僕が聞きたくて彼に尋ねた。
僕は冬樹が話していた内容よりも、彼がこんなにお喋りな奴だったんだということの方が重大である。
だから、じっとただ冬樹の表情を伺っていたんだ。
面白いとかじゃなくて、何と言えばいいのだろう。
新しい何かに出会った瞬間?
人の中身に触れられた激動と言えようか。
だから最後の方なんて、すぐ僕の耳は右から入っては左へ出ていってしまった。
彼の考えはひとつの仮定で、確信ではない。
その断言できる証拠が存在しない。
しかし、それ全てが間違いであるという断言もできやしない。
そこが難しいところなんだ。
だって何も知らないのだから。
根になる部分を知らない。
一体何に賛成しているのか、自分自身わかっていないのだから。
冬樹は最後にこう述べた。
「俺は俺なんだろうか…」