僕がぼーっとしていると、冬樹が振り返った。
起こしてしまったのか、と思った僕は謝った。

「いや、君が来る前から起きていた」

「君か…」
僕は冬樹の事情より君と言うほうが気になった。

「おかしい?」

「いや、この部屋には僕と冬樹しかいないから」

考えることも多少似ているのだ。
突っ掛かるところも、それに対しての対応。
よくできている。

「僕たち2人だけって気味が悪いね」
僕はそう言葉を投げ掛けてみた。

「そうだな。でも、それに耐えられなかった君は部屋から出ていった」
冬樹は僕と目を合わせずに、顔だけをバルコニーに向けている。

「違うさ。煙草を吸いたかっただけ」

「そう。長い煙草だね」
冬樹は意味ありげに言った。

僕はそれに笑った。
顔を上げて笑ってみせた。
理由なんてない。
ただこの状況に笑えたのだ。
でも、冬樹は全く笑わなかった。
表情は読み取れなかった。
僕が顔を下ろした頃には、彼は立ち上がって身体ごとバルコニーを向いていたから。
それにただ僕は冬樹の背中を見ていた。
倉田よりは小柄だが、白い髪が目立つ。
染めてるのかな〜なんて思ってもみたが、どっちでもいいやと思って止めた。