女性の買い物は男の僕にはわからないわけで。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
「やっぱり向こうで買う」と行って、最初に入った店に戻る。
でも結局買わなかったりもする。
僕はずっと振り回されていた。
そんな中あの男だけは楽しそうに話している。

「それ似合ってる!」

倉田だけはノリノリなのだ。

「悠斗」
後ろから肩を叩かれて振り返った。
「せっかくなんだから、服買ったら?」
菊永はすでに紙袋を2つも持っていた。

「僕はいいよ」

「何言ってんの?ほら」
僕は菊永に腕を掴まれ連れていかれた。

メンズ店らしく、洒落た服が並んでいる。
「これなんてどう?」
彼女はそう言って、勝手にコーディネートしはじめた。
店内はSALEと印刷されてあるチラシが貼ってあったり、吊してあった。
何組かのカップルが服を見ている。
だいたいが僕と同じ光景。

何度も試着しては、「違う」と言われた。

「別にいらないよ。何枚か持ってるし」

「ダメ!買える時に買わなきゃ」
菊永は持っていた紙袋を胸元まで上げて僕に見せた。

僕たちパイロットは、身なりを気にしない。
それはほとんどが操縦服や簡単な格好で済ませてしまう。
こんな人間が多いところにはこないからだ。