そんなこんなを考えているうちに拍手が鳴り終わる。

「はい!次!」
そろそろ疲れてきたであろうその先生の声はまだ続く。


────カタンッ


後ろで立てった音がする。

その音が鳴って……静寂が訪れる。

そこに落ちるか細い声。


「妃夢乃 美凛(ヒメノ ミリン)です…」


静かで穏やかな透明な水にオレンジ色をひと雫おとしたような、教室に広がり、すっと消えていく声。


そして、また穏やかな透明な水に戻る。



しかし、


「……華代(ハナシロ)学園から来ました」


この一言で、その水にざわめきという波紋が広がる。


なぜなら、その学園は、日本で知らない者はいない、超有名私立学校だからだ。
中高一貫の女子校であり、金持ちの清楚な、なおかつトップレベルの学力の者しか入学できないお嬢様学校。

そこからいつしか、「頂きの花園」と呼ばれるようになっていた。


そんな有名校からの新入生だ。
ざわめくのも無理もない。

現に、他の人の自己紹介に無関心だった俺も振り返っているのだから。




振り返った先は、

「趣味は読書と音楽…です。宜しくお願いします。」

自身がなさそうに少しうつむいた、茶髪のボブヘアの小柄な少女がいた。


ふと顔をあげた少女、妃夢乃と目が合う。

逸らせばいいのか微笑んだ方がいいのか迷っているうちに、妃夢乃は怯えた子りすのように小さくお辞儀をしてそそくさと座った。


再び鳴るカタンッという椅子の音が合図だったように、クラス中のざわめきが広がるが

「はーい、静かにー」
と、パンパンっと手を鳴らす担任の声で、何事もなかったかのように静まり返り、そのまま自己紹介が続いた。