ーーー「起立、礼」
今日もまた、憂鬱な授業が終わった。
今年、中学2年生になってから、4ヶ月。
部活に入っていないあたしは、いつも同じ帰宅部の親友と帰る。
「結穂、行こー!」
噂をすれば、あたしに声をかけてきた。
彼女の名前は、宮間 彩(みやま さや)。
家はそれほど近くはないけれど、小学校から一緒で、仲がいいのは変わらない。
「うん、帰ろ」
そして、昇降口までの短い時間を雑談しながら歩く。
3階にある音楽室から聞こえてくる、吹奏楽部の楽器の音。
あたしは毎日、その音に耳を傾けている。
「どれが竜樹先輩だろうねぇ〜」
「ちょっと、やめてよぉ〜」
竜樹先輩、というのは3年の野口 竜樹(のぐち りゅうき)。
……あたしの好きな人だ。
先輩とは委員会が同じなだけで、なんの接点もない。
そして、ウチの学校の吹奏楽部はうまくて、県大会や全国大会に行くレベルらしい。
ちなみに竜樹先輩は、サックスを吹いている。
選抜に受かるくらいの実力者で、部内でもトップのうまさだそう。
「結穂、告白しちゃえばいいのに」
「ハハ、無理だね」
「なんで?」
「……だって、きっと振られちゃうもん」
あたしは、振られるのが怖い。
だって初恋なんだもん、大切にしたい。
そんなのは、ただのエゴだって事はわかってるけど。