びっくりして先生の顔を見ると、優しい笑顔をくれた。
少し顔を傾けた先生は、一歩私に近付く。
「俺を好きになるなよ」
「なってないし!!絶対ならないし」
「それなら良かった」
先生は、手袋を外し、そっとバイクに触れた。
「一度だけ、母親を後ろに乗せたことがある。今日みたいな秋晴れの日だった。田んぼのわき道をバイクで走ったんだ。その光景が今も頭から離れない」
だから、大事なんだね。
思い出の詰まったバイクなんだ。
「先生のお母さん、空からずっと見てると思う。自慢の息子だって天国でみんなに話してると思うよ。でも、時々このバイクの後ろに乗ってる気がする」
今の私には、これが精いっぱいだった。
でも、慰めとかじゃなく、私は心からそう思う。
「ありがと。お前に話して、俺も前に進めた気がする。16歳のガキだけど、俺にとっては特別な存在だよ」
私が、一番欲しかった言葉。
先生のたくさんの生徒の中で、特別になりたかった。
「私も・・・・・・先生は特別です」
「それは、恋じゃないからな。勘違いするなよ」
「でも、先生と一緒にいると安心する」
この安心感とドキドキのバランスが最高に心地良い。
「俺も、このままお前を卒業させちゃうのは惜しい。こんなにも一緒にいて癒される生徒は初めてだから」
見つめ合っているせいで、緊張しすぎて、言葉がうまく理解できない。