「あの席から、俺のバイクを見てたんだな」

「うん。先生よくバイクに会いに行ってるよね」

「バレてた?」


くくくく、と笑った高垣先生は、また空を眺めた。


「辛いときは、空を見ればいい。空は繋がってる。会いたい人にいつでも会える」


空のずっと奥を見つめているようなその瞳を見ていると、高垣先生には会いたいけど会えない人がいるんだろうなって思う。


「会いたい人、いるの?」

「ああ。会いたいけど会えない人。お前と一緒だな。お前もおじいちゃんに会いたいだろ」


こんなにも人気者で、誰からも愛される人でも、悲しみを抱えていたりするんだ。

先生の横顔はとても悲しく見えた。


「失恋した人?」

「はは。俺が失恋すると思うかぁ?」

「誰にでも優しいし、思わせぶりだから、彼女が嫉妬して離れて行ったんでしょ?」


教師相手に、こんなこと言うのはダメなんだろうけど、この人なら許してくれる。

教師と生徒としてじゃなく。

人間と人間として、私と向き合ってくれているのがわかる。



「それ、あるある!でも、俺、思わせぶりじゃないよ。教師って職業は、どの生徒も大事でどの生徒も心配する。まだ、恋愛経験の少ない高校生は、それを勘違いしてしまうんだと思う」

冷静にそう話す先生の言葉を聞きながら、私も勘違いしてしまったひとりなんだと気付く。

私は、いつの間にか、高垣先生に恋心を抱いてしまっていた。


否定しても否定しても、それは、事実で。

この胸のときめきがそれを証明していた。