ぶつかるのが怖いのは、私も同じだけどね。
でも、こんな冷めた目をしている私に、ぶつかってくれる人がいる。
血も繋がっていないただの教師が、私の心の中に足をどんどん突っ込んで、私を暗闇から救い出そうとしてくれている。
それなのにさ。
たったひとりの家族であるお母さんがそんなんじゃ、悲しくなる。
追いかけてきて、ドアをぶっ潰してでも私を抱きしめてくれればいいのに。
意地っ張りな性格はお母さんに似ているんだから、気持ちはわかるはずなのに。
家出なんてガキみたいなことはしない。
窓を開けて、月を探す。
灰色の雲に隠れた満月が、少しだけ顔を出して、また隠れた。
いつもそこに浮かぶ笑顔はおじいちゃんだった。
でも、今、浮かんだのは、黒いジャージのあの笑顔だった。