波は膝上まで来た。
思ったより自分の足が動かない事に驚いている。


これより先に行きたくないのか。
水の抵抗が足を止めているだけか。

一度立ち止まってふと空を見上げた。
何も変わらない灰色の空。


初めて海辺を一緒に散歩した時もこんな空だった、何て事を思い出してしまった。

するとポケットから聞きなれた音がしていた。
海の中だというのに、冷静に右手の傘を左手に持ち替えて携帯をポケットから取り出した。

画面には見慣れた人の名前。
電話だ。私は切った。
すると着信履歴が25件も来ていた。
ずっと鳴ってたのかな?全く気づかなかったみたい。


なんで今になって音に気づいたのかはわからない。
LINEも入っている。
トークを見なくても一文が見えた。


今どこにいる?

電話に出てよ

心配だ

どこにいるの

とどんどんLINEが来る。その通知は50件を越していた。
あまりにも無視するのは可哀想かと思い、


言ってもわからないでしょ


って返した私。
よくよく考えると海の中だ。
ここにきてまでこの人に可哀想って思えるこのお人好しな性格が、大嫌いだ。


すると15秒もしないうちにまた着信が入る。
今死のうとしている私を邪魔するなんてと冷静なイラつきを感じた。

もう言ってやる、全部言ってやる。
私の今まで思っていた事、そして今からする事を。
そして一生苦しめばいい。そう思い電話に出た。