冬の冷たい風が海の潮を運んでくる。


潮風は髪や肌をベタつかせるが、そんな潮の匂いが好きだった。


今まで辛くなったら、ここにきて波を打つ海を見て泣くことがお決まりになっていた。


今日は、辛い日を乗り越えてきたこの場所で全てを終わりにしようと思っている。

初めて貰った自分には似合わない可愛い傘を右手に。

ダサいといいながらもお土産にくれたキーホルダーは携帯に付けた。

全ての思い出が詰まった携帯はそっとポケットに入れた。

首と耳には誕生日プレゼントでもらったブランドの物を付けた。すごく重いや。

左腕に貰った人形達を抱かえる。

服と靴は適当だ。


今にも雪が降り出しそうなどんよりとした天気。低くて厚い雲が太陽を隠している。


海辺は貝が沢山あって、裸足では痛いななんて現実的な事をふと考えた。

後ろは振り返らずに、一歩ずつ歩き出した。
潮の音は私の全身を包んでいる。
誘っているようにも、止めているようにも聞こえる。


気が変わる前に、早く深いところまで。


波はどんどん私の足をさらっていく。
冷たいとか怖いとかは感じない。
ただ身につけた物が落ちないように腕にしっかり力が入っているだけ。


早く、早く、深いところまで。