駅前でタクシーを拾って、病院へと向かった。

初めて感じた緊張感だった。

車内の空気は重く、彼もわたしも何も話さず、ただ窓から流れる景色を覚えようとするわけでもないのに、眺めていた。

ただ、考えていた。大のことを。

しばらくして、彼の声が沈黙を破った。

「弟って、この前、俺が携帯を渡した?」

そういえば、この前携帯を届けてに来てくれたんだっけ。

「うん。あれが弟。小さくて似てないでしょ」

大と、最後に話したのっていつだっけ。

「確かに、小さかったけど。似てましたよ」

そう呟くと口を閉ざした。似てるのかな。似ていないのかな。ううん。どっちでもいいけど。

この前、携帯を渡されたのが最後だっけ。

記憶は走馬灯のように思い出すこともなく、アルバムを1ページずつめくるように甦ってくる。






そうだ。

わたしは。

大に、大に、謝らなきゃいけないんだ。

あの、雨の日のことを。