間違ってお酒を飲んでしまった、と気づいた頃には遅かった。

「地球が回ってる」

お店を出た頃には、すっかりわたしはわたしというものを失ってしまっていた。

頭の中がふわふわしてうまく歩けないし、サンバでも踊れそうなくらい気分が良かったりする。

なんかどうでもいいかも。足元が軽くてどこへでも行けそうだ。

流れ作業みたいに、カラオケへと向かったけれど週末の夜はどこのお店も混んでいて、15分待ちと言われ、空いてるソファに座っていた。

少し、気持ち悪いかも。

「トイレ、行ってくる」

梨花に告げて立ち上がる。

「えっ。1人で行ける?わたしも行くよ?」

「大丈夫。すぐそこみたいだし」

むしろ、1人で行きたい。さっきまで陽気だったわたしが冷静になるよう、頭の中で指示を出すけど足元がおぼつかないのは確かだ。

廊下の壁に貼ってあるトイレの案内矢印を辿ると、カラオケの部屋のドアとは色が違うドアを見つけた。

勢いよくドアを開けると、ドンッと正面から来た人と肩がぶつかる。

「ごめんなさい」と、言えたけど、なぜか睨むのはスーツを着た男性だった。

なんでここに男性がいるの?

もしかして、盗撮とか、変態?

危ないと、頭では思っているのに、足がふらふらしてうまく歩けない。

逃げないと、と思っているのに。

あ、気持ち悪い。口で手を抑えた。

「吐きそう……」

俯いたときだった。わたしの手が引っ張られたかと思うと、個室のトイレに引き入れられたのは。