「優菜、自転車で駅まで送るよ」
学校が終わり、下駄箱で美和子が心配そうな顔をして言った。
「大丈夫だよ」
あれから2人に付き添われて保健室に行ったけど、軽い打ち身と擦り傷だけですんだ。
「いいから、乗んな。こういうときくらい甘えなよ」
「美和子のほうが背小さいし。重いよ、わたし」
「彼氏、後ろに乗せたことあるし、大丈夫だって」と得意気な顔をする。
促されて美和子の自転車の後ろに乗る。住宅街のゆるい下り坂を下って駅へと向かった。
「でもまじ赦せないよ、わたし。明日殴りに行ってやる」
「まあまあまあ」
「だって、階段だよ?
一歩間違えたら、死んでたかもしれないんだよ?
非通知だってさ、ありえないよ。
犯罪だよ。
どんな、神経してるんだか」
「そうだね」
「そうだねじゃないよ。
ああ、もうイライラする。
ていうか、優菜もそんな嫌がらせ受けてたなら、言ってよ。
本当に。
一人で抱え込まないでよ、まじで。
あー、言ってくれたら絶対ぶん殴ってやったのに」
「ははは」と笑うわたしに「笑いごとじゃない!」と美和子は本気で怒ってくれた。
それが、嬉しかった。
坂を下りきったところで「あれ、亮太じゃん」と言って、スピードを緩めた。
顔を少し右に寄せると、その背中を見つけた。
キキッとブレーキをかける。亮太がその音で振り返った。
「おお」
「亮太、駅まで行くの?」
「おう」
「じゃあ、優菜を預けるわ」と言って、急に降ろされた。
「み、美和子?」と挙動不審なわたしを気にすることもなく、亮太は「お前、傷だらけなんだけど、どうした?」と柔らかく笑った。