手紙を読み終え自分の中の彼女という存在を、意識の中で確かめていた時───風が吹いた。
風は部屋の中をかき回し、触れるほどにしか持っていなかった手紙は僕の手からすり抜け、躍りだす。
意志があるように、魂が宿っているように。
ほんの少しの間、二枚は躍り続け手紙は運良く手元に帰ってきた。
けれどもう一枚の紙は、もう一度強く吹いた風に乗り、窓から外へと飛び出してしまった。
「あっ」
僕は窓に近付き、窓から身を乗り出して上を見る。
黒い空の中に、白く小さな物体を見つけた。
外へ飛び出した紙は、風に乗ったままかなり上空まで飛んでいる様だ。
まだまだ地上に降りてくるには時間がかかりそうだった。
ふと、ここがいつも彼女が居た場所だったことに気づく。
「結構遠かったんだな。思ってたより」
(いつもこの距離で俺を見てたんだ)
いつも僕が感じていた距離なんかより遥かに遠かった。
代わりに、空は手を伸ばせば触れてしまえそうなほど近くに感じた。