少し先の方で一つだけ取り残されたロウソクがあった。

はるか先生と福嶋が片付け忘れるなんて事はないだろうから、きっと私が見落としたもの。
「私と福嶋ってね、幼稚園の頃からずっと同じクラスなんです」

そのとても寂しく夜の中に残されたロウソクの所へと歩いていく。

もう火が灯っているロウソクは一つもないから、風情のない音が一度鳴いた。

「幼稚園からって何年だよ。」
「12年。今年で13年目です」
「生きてきた時間の大半じゃねえか。」

そう。はるか先生の言う通り福嶋と私は、今日まで生きてきた人生の大半を同じ教室で過ごしてきた。

幼稚園の二年間も、小学校の六年間も、中学校の三年間も、高校の二年間も。

はじめてクラスメイトになってからずっと。

一つだけ灯った火が柔らかに照らす小さな円の近くに、座り込む。

また、私が生んだ風に火が踊る。

「でもだからって、幼なじみってほど近いわけじゃないんですよね」

なのに、幼なじみと言える程遊んだ記憶もなくて、家がどこにあるのかも知らないきょり。


それを的確に表現できるのが───12年来のクラスメイト。

「まあそんなもんだよな。」

次の風は生まれない。はるか先生は横に立ったまま。

「なのに、どうして思ったんだろう、」

ずっとクラスメイトとしてこの12年間を過ごしてきた。

どうして福嶋と近いきょりにいる事をあんなに自分が拒むのかも分からない。


「”一緒にいちゃいけない”なんて」


音もなく灯り続ける火に溶けるロウがその下で光って。

誰かが零した涙に見えた。