完全に灯りが見えなくなった後やっと自覚と意識から解放された身体が、深い息を広く吐いた。

「お前らも大変だな。」
「わ、はるか先生」

そのあと、後ろにいたはるか先生の声が静寂な丘の上に響いた。

その静謐な大人の声に、無意識に固まっていた身体が解かれていく。

「人手減っちゃったけど後これだけだもの。すぐ終わりますよね」
「減ったじゃなく減らしただろ。」

やっといつもに戻った身体で、はるか先生といつもと変わらない会話をはじめる。

「戻すかどうか決めるのは本来俺だ。」
「えへ。すみません、でも…」

けれど、内側で吹く風で私の内側のどこかはまだざわめいたまま。

柔らかな灯りの中の静かで緩やかなかテンポの会話と福嶋の心地よい声と、近づいた後に遠ざかっていった背中と。


「”今は福嶋と一緒にいちゃいけない”」


いつもと変わらない平常運転がロウソクの灯りで微かに弛んでいる様に見えた端整な顔を思い出す。

「は?」
「分からないんだけど、そう思ったんです」

あの顔は、やっぱり幻覚だったのか。それとも本物だったのか。分からない。


何も分からない。