先にエレベーターを下りた白雪を見送った後、誰もいない廊下の真ん中を歩いて部屋の扉にカードキーを差し込んだ。

扉を開くと鋭い光りは漏れてくるが、本来なら聞こえてくる筈の喧騒はなく至極静かだ。

「あ…福嶋くん…お、かえり」
「おう」

壁端のベッドの上で中途半端に身体を出しているサカキしかいない。

俺が冷蔵庫から水を取り出して窓側に置かれた椅子に座る音だけが響く。

滑らかにスライドする大きなガラス窓を開けると、ベランダの向こうから波のせせらぎが室内にまで優しく押し寄せる。

先程とは違い、静寂な空間をその音で染めていく。