こいつは本当に、心の底を擽るのが異常に上手い。

「いいよ。待たせた詫びと付き合ってもらってる礼なんだから」

此方はクラスメイトでいる為のラインを越えない様いつも見極めているのに。

「ふふ、かっこいいねほんと福嶋、」

それを容易く越えるフリをする。

「お前らの言うその恰好良いってどういう基準なんだよ」
「ん?んー、福嶋のかっこよさはやっぱり、」

けれど実際の脚は決して越えはせず。

「自然なところ、なんじゃない?」

それでもそのフリに此方の心の底はぐらりと思いきり揺らされて。ラインがどこにあるのか見失う。

そして。

「福嶋を一人占めできる人は、幸せ者よね」

そして、その揺れを白雪自身がぴたりと制止する。

その全てを”備え持った無邪気な仕草”で片付けられてしまうのだから、此方側は本当に遣る瀬無い。

「何だそれ」

外で女郎花色の月に煌めく海は、何も聞こえていないと伝える様に音もなく波を作る。

「生まれ持ったかっこよさって事よ」

それでも理性が働き箍が緩む気配が無いのは、もう三年もこんな日々を繰り返している賜物だろうか。