「はあー!?その他大勢のくせに福嶋に文句言うなんて何様だってのー!」

後ろではリカの良く通る声と彼女を笑う軽やかな声が賑やかに跳ねていて。

その更に後ろでは来週に迫った修学旅行の話題の声も跳ねている。

「誰がその他大勢だって?」
「この美形な顔を良く見ろっての!」
「お前に福嶋様は無理だっつの。いい加減諦めろよっ。」

突き出していた手を戻して振り返ると、教室の奥で一人いつもと変わらない平常運転な表情でこちらを見る福嶋が見えた。

その視線はとても緩やかに隣の男子へと移り、端整な横顔が何かを喋っている。

「福嶋くん今日もカッコいー。」

福嶋は、まるで少女漫画から生まれてきた男子の様にかっこいい。

成績も優秀で運動神経も抜群。いつも一人落ち着いていて、福嶋の一言で全てが治まってしまう。

福嶋の前では多勢に無勢なんて諺は意味を無くしてしまう。

無勢の鶴に多勢の雀という諺があれば、それこそが福嶋には合う。

程良いアルトがとても心地良くて、福嶋の生む言葉に優しく力を纏わせるからより説得力が増す。

唐茶の髪は生え際が黒いなんて怠惰は見た事がないから、きっと地毛がその色なんだと思う。

「目の保養だよね。」
「周りとは何十段階も違うわ。」

何より非の打ち所がない端整なその顔立ちは、だれもが一度は恋してしまう位にかっこいい。

「いいなー。あんなカッコイイ幼馴染みなんて。ほんと姫羨ましいよ。」

そんな福嶋と私は。

「幼なじみって言えるほど私、そんなに福嶋と近くないわよ?」
「じゃなに?」


「んー12年来のクラスメイト、かな」


空を見上げれば、風が雲で様々なものを描いていた。