彼の優しさは、そういう空気を掴むのが苦手な私からすれば、何かと交換してほしい位に素敵な特技。

「サカキくんせっかく素敵な特技持ってるんだから、自分にもそれ使えば良いのに」

なのにそんな消極的になってしまうなんてもったいない。

「いると思うよ。サカキくんを嫌ってなくて無視しない人」
「いないよ…そんな人。」

彼より私の方が少し背が高いから、俯いてしまうとせっかくの綺麗な黒目が見えなくなってしまう。

「そんな…優しい人。」

さらに小さくなっていく声に、自動販売機が一声ウオン、と怒った。

とても素敵なものを持っているのに、サカキくんは全然それに気付いていない。

「ほら、福嶋とか」
「福嶋くん?」

その特技を自分のために使えば、絶対すぐ分かるはずなのに。

「福嶋って口数少ないし自分から手を差し伸べたりはしないけど、自分に向けられた何かを無下にする人じゃないよ」

福嶋の優しさは、私にだって簡単に掴めるんだから。

「話してみたら?折角三日間も同じ部屋なんだから」
「…う、ん。」

本当に小さく僅かだったけれど、サカキくんが確かに頷いたのが分かって、表情筋がまた勝手に緩んだ。