ドックン、ドックン。
心臓が忙しなく跳ね上がる。
こんな感覚、初めてだ。
「すみませんでした」
改めてもう一度頭下げて謝り、セーラー服の女子は横を通り過ぎていった。
また、甘い匂いが香る。
「……っ」
名前も知らないあの子のことが気になって、衝動的に振り返る。
待って、と呼び留めかけて、口をつぐんだ。
彼女が振り返ることはなかった。
ふわふわした天パのような髪が、歩く度なびいていて、なおさら呼吸に手間取った。
「……幸?」
碧に名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
あれ?もしかして、俺、見とれてた……?
今更気づいた自分自身に驚く。
な、んだ、これ……。
鼓動が、うるさい。
文化祭ムードの周囲よりも。
熱くて、どうにかなってしまいそうだ。
「どうしたんだよ」
「い、いや、別になんでもねぇよ」
「顔、赤いけど?」
「あ、赤くねぇし!!」