誰だ?



マスクを顎下にずらせば、覚えのありすぎる香りが嗅覚を刺激した。


おもむろに振り返る。



「……っ!」



眼が限界まで見開かれていく。


乾く寸前で、ぱちぱち、と瞬きをした。



……まさか、こんな偶然が?


う、そ、だろ……?



バク、バク、バク。

今の今まで平然としていた心臓が、急激に熱くたぎって、抑えられない。




「遅くなってすみません!HRが長引いてしまって……」



目の前の彼女が、頭を下げて謝罪する。


しかし、もはや俺には聞こえていない。




顔横を滑り落ちた、触り心地のよさそうな細い髪。そこから覗く、ほのかな赤み。

甘い香りも、相も変わらず、俺を魅了する。




きみにまた会えたことが、嬉しくて、戸惑って。


時間さえも止まった感覚に堕ちたんだ。