なんで俺が、こんな恥ずかしい思いをしねぇといけねぇんだ。



変に緊張する。それを取っ払いたくて、無意識に黙々と昼食の弁当を食べ続けた。


う、うまい、うまい。卵焼きの塩加減も、ロースカツの柔らかさも最高だ!



……もはや現実逃避だ。





「会いたかった人って?」


「詳しく教えろよ~!」



何も知らない要は、首を大きく傾げた。

碧は野次馬根性旺盛に、肘でつついてくる。



からかう気満々だな、このKY男は。




「……前から会いたかった人。それ以上は言わねぇ」



俺は3人に背を向けた。今度は顔だけでなく、体ごと。



体の向きを変えた先には、フェンス越しに景色が広がっていた。


学校の校門から生徒玄関までの道のりに植えられている、桜の木々。



ひとひら、また散っていく。

桜は、異様に可憐で、儚くも愛おしい。




視界にちらつく薄紅色。


あの子の頬は、もっとずっと赤い。



か弱い桜の花びらに、1滴、林檎の蜜を垂らして。

ぎゅっと愛情を注いで。


綺麗な色を深く、柔く、艶やかに染め上げたような。



そんな、かじりつきたくなるほど誘惑的で、未熟な色。