バタン。
扉を閉めて、こっそりため息をつく。
「呼べるわけないじゃん……」
気が向く時なんて、きっと来ない。
「お義兄ちゃん」って呼びたくない。
「――私は、世くんが好きなのに」
呼んでしまったら、完全に関係が変わらなくなる予感がして。
ふと、目に留まったのは、お風呂に入る前に壁にかけておいたカーディガン。
ぶかぶかサイズのソレは、元は世くんの物だった。
高校入学前に冗談っぽく「ちょうだい」と求めたら、「いいよ」と快くくれたんだ。
世くんの優しさは、時に甘美で、時に残酷だ。
世くんの匂いが染みたカーディガンの裾に、指先を触れさせる。
「これになら、手を伸ばせるのにな」