こんなに近くにいるのに、あんなに遠い。
この想いを届ける勇気すらないけれど、たとえ届けたって、きみには届かないんだろう。
きみは簡単に私に触れられるのに、私はためらって、手を伸ばすことさえできやしないんだ。
「なあ、りんご」
「なあに、世くん」
知らないでしょう?
名前を呼ばれるだけで、呼ぶだけで、こっちがどれだけ胸を締め付けさせているか。
知らないのなら、どうかそのまま、知らないままでいて。
「いつになったら、“お義兄【ニイ】ちゃん”って呼んでくれるんだ?」
世くんは、ずるいな。
私の言えないわがままを、たやすく言えて。
それで、また、私をトリコにさせるんだ。
ほんと、ひどい。
「気が向いたらね」
ツンとした態度で、そっぽを向いた。
素っ気なく自分の部屋へ行く。静止の声が聞こえるけど、聞こえないフリをしよう。
これは、私なりの、ちっぽけな悪あがき。