俺は、一日だって忘れられなかった。
あの時鳴り渡った鼓動も、時が止まったかのような感覚も、苦しさを引き連れた甘さも、隠しても隠し切れなかった熱も。
目を閉じれば、昨日のことのように思い出せる。
俺の記憶には、見知らぬ少女の姿が、深く鮮明に刻み込まれていた。
一体何の魔法か、はたまた呪いか。
どんなに考えたって、意識したって、たどり着く答えはひとつ。
――きみに会いたい。
「っはよー、幸!」
「おー、碧。はよ」
校門を通ると、後ろから挨拶された。
碧は隣に並び、機嫌よさそうに鼻歌をこぼしている。
「朝から元気いいな」
「瑛美【エミ】と昨日電話してさー」
「あ、惚気ならいい」
「なんだよ、お前!聞けよ、最後まで」
碧には中学から付き合っている彼女がいる。
超のつくほどラブラブなカップルで、よく惚気を聞かされる。いつかまじで胸焼けしそうで怖い。
一度彼女の写真を見せてもらったことがあるのだが、碧にはもったいないくらい美人な子だった。
それに何より、碧に彼女がいることが……むかつく。