毎朝の駅の混雑ぶりは、いかに慣れていようと、正直、辟易してしまう。
身長が180と少しある俺は、人よりちょっと高い位置の良い空気が吸えるのが救いだろうか。
ホームに滑り込んでくる電車は、どれも人いきれの殺人缶詰だ。


だが、そんな中にも癒しってやつは有る。
毎朝同じ時間、同じ電車の同じ車両に乗り込んでくる彼女だ。


さらさらと音が聞こえそうなストレートの黒髪と、ぱっちりした二重の眸。
いつも伏し目がちで、あと、身長がすげぇちっこい。多分俺より頭一つは小さい。
着込んでいるのはこの辺りじゃちょっと有名なお嬢様学校のセーラー服。


俺みたいなごく普通の公立高校の生徒からしたら、高嶺の花ってやつかもしんねぇ。
もちろん口なんか聞いた事は無い。名前すら知らない。でも見るだけならタダだろ?
このぐらいの安らぎが無きゃ、こんな人間缶詰電車に毎朝乗れるかっつうの。


ほら、いつもの電車がやってくる。
俺は列に並び、乗り込む為の戦闘準備だ。
横目に彼女を捜したが、見失ってしまった。
だが、同じ車両に乗ってくる事は確かだ。落ち着いてからまた捜そう。
ブレーキを軋ませる車両の音が耳に鋭く響く。