「ほら帰って早々馬鹿な事を言ってないでさっさと着替えてらっしゃい、それとも先にシャワーでも浴びたら?今日もクラブで汗を掻いてるんでしょ?」
「いいよ、面倒だし後で。それに慎ちゃんが覗くかもしれないから」
「馬鹿!」
そう言って僕は近くにあった座布団を投げ付けた、和美はそれをさっと避けると着替える為にあっかんべーをしながら自分の部屋へと消えていった。
まったく何処迄本気で何処迄冗談なのか僕はいつも和美にドキドキさせられる。
本音を言えば僕だって健全な男子高生である、女の子の体には人並みに興味もあるし、ましてや好きな女の子だったらその裸を見てみたいという気持ちもあるのだ。
ただ僕にとって和美は特別な存在だったので、正確に言えばそういったいやらしい気持ちよりは手を繋いだり抱き締めてみたりといった欲求の方が強かった。
子供の頃は平気で手を繋いだりふざけて子犬のようにじゃれ合っていた頃が懐かしい。
「ただいま」
その時玄関から声がして和美の父親が帰ってきた。和美の父親は町の役所に勤めているため大体いつも同じ時刻に帰ってくる。
「お、慎太郎が居るのか」
玄関にあった僕の靴を見て和美の父親が少し声を弾ませた。和美の父親は野球が大好きでお酒を飲みながら僕と一緒に野球中継を見るのを楽しみにしている。やはり女である和美や母親とでは野球の話が出来なくつまらないらしい。
「お帰り、おじさん」
「おう、元気か?」
「ははは、しょっちゅう会ってるじゃない、元気だよ」
本当に毎日のように会っているにも関わらずこうやって気に掛けてくれる和美の父親が僕は好きだった。特に父親が居ない僕にとって和美の父親は僕の兄貴であり、頼れる先輩でありそして父親代わりでもあった。
「それより慎太郎、今日から巨人阪神伝統の一戦だぞ」
「そうだよね、今日が前半戦の山場だよね」
「駄目よ、パパ。慎ちゃんと私はご飯を食べたら宿題を一緒にするんだから」
その時普段着に着替え終わった和美が二人の話しに割って入ってきた
「そんな事言うなよ、大体お前はいつも喋ってばかりで勉強なんかしてないじゃないか」
流石に父親、娘が勉強をしていないのはお見通しだ。
「そんな事ないわよ、ちゃんと勉強の事を話してるんだから、ね、慎ちゃん?」
「どうだかな、喋りながら俺のノートを写してるだけだと思うけど」
「もう!」
「ほら見ろ、写すだけなら自分の部屋で一人でやりなさい、パパは慎太郎と野球を見るから」
「あらあら二人して慎ちゃんの取り合い?まったく」
その時和美の母親が色々な料理を運んできて夕食となった。
結局、食事をした後食休みの三十分野球を見て、その後和美と勉強をする事で話はまとまった。僕は野球を見たい気もしたけど、部屋で和美と二人で居たかった。
今の僕にとっては学校では無く和美の家で二人で居る時間が何より楽しかった。
「そう言えば慎ちゃん、最近お母さん仕事遅いみたいね、時期的に忙しいのかしら」
そう言われてみれば確かに以前に比べ舞ちゃんの帰りは遅い。
「あ、それは僕が高校に入ったからですよ。今まで僕が中学生だったから会社の人達も気を使って残業させなかったりしていたようで。だから僕が高校に入ったので今迄他の人に迷惑を掛けた分少しは残業するって言ってました。それにたまにはお酒にも誘われるみたいだし、だからそういう時は今迄行けなかった分参加すればって言ったんですよ」
「あら、そうなの?それはそれで大変ね。じゃあ今日も遅くなるのかしら?あ、そうだ、それなら帰りにこれ持っていきなさいね」
そう言ってオバサンはタッパーに詰めた料理を僕に手渡した。
「いつもすいません」
「何言ってるのよ、お隣さん同士なんだし。それに将来親戚になるかもしれないでしょ?」
「え?」
昔からそんな冗談が良く出る。もっともそれがどこまで本気なのかは僕には判らない。