「瑠衣…」
観客には聞こえない、小さな声で名前を呼ばれる
そして、ゆっくりと近づく顔が私の鼓動を高鳴らせた
客席からの悲鳴
それと同時に、宙はポケットに差し込んであった薔薇で口元を隠した
これで、客席からは口元が見えない
私はとっさに目を閉じる
「大丈夫、フリだから」
そんな声が聞こえてくる
そっか、そうだよね
少し残念に思ったのはきっと私の気のせい
そう思ったのもつかの間
「フリだから…今はここ」
頬に何か温かいものが触れた
再び速度を増す鼓動
「っ…、宙っ」
目を開けると、悪戯っぽく笑っている宙がいた
…そんな顔ずるい