「……なぜ、まだここにいるんだ」




この声、山崎さんだ。




「泊まる宿がないのか?」




私は、何も答えない。




「迷ったのか?それとも、家出してきたのか?」




その質問には、首を横に振る。




「ならば、なぜ帰らないんだ」




私は、ようやくゆっくりと顔を上げた。




目の前に居たのは、やっぱり山崎さんだった。




月光に照らされている彼を、私は見上げた。




「……また、お仕事ですか?」




彼は、昼間の時と同じ様に黒い服に身を包んでいた。




「ああ、まあな」




「なら、早くお戻りになったほうがいいですよ。

 こんなとこにいちゃ、だめです」




「いいんだ」




口元を覆っているから、相変わらず声はくぐもっていた。