左手に持っているスマホのライトはヌラヌラした足元を照らしているが、その光を遮断している物体が視界に入る。

ライトを胸の高さに持ち上げ、物体のある胸元を照らす。

「あぁ……忘れてたわ」

胸ポケットには、二宮の血で潤った黒バラが挿さっていた。

「ッ……!」

小さいが二宮を食い殺した巨大な黒バラと同じ、綺麗に咲いた黒バラだ。

もしかしたら、この小さな黒バラも牙を剥くかもしれないと思うと背筋が震えた。

それと同時に『私綺麗でしょ?』と二宮の血で潤った黒バラが私を嘲笑っている様な気がして、恐怖は一瞬で憎悪へと変化し、私は黒い花頭を握り潰して胸ポケットから引き抜いた。

黒バラを足元に叩き付け、右足で踏み潰す。

踵を上げてつま先で磨り潰すように、足首を左右に捻った。