降参の意味を込めて、私は大きな溜息を吐いた。
「分かったわ……急がなくて良いから、慎重に。気を付けてね」
後のことを考えていなかった訳ではないが、未成年を危険な目に遭わせたくなかった。
刑事として、大人として。
でも今はそんな事を言っている場合ではない。
もし私が怪我をして赤野の足を引っ張る事になれば、助かる命も助からなくなってしまう。
脱出に時間制限がある訳ではないが、一刻も早くこの屋敷を出て、新鮮な空気を吸いたい。
「折笠さんはその部屋の中を調べて待ってて。絶対に外に出ちゃダメだからね」
私を見上げていた赤野は、それだけ言い捨て私の視界から姿を消した。
扉が少し開いてから、しばらくしてパタンと閉まる音が聞こえた。
下の部屋からは何の音も聞こえなくなった。