春雪のいとこはゆっくりと立ち上がると、杖を突いて私たちの方へ歩いてくる。

「こ…ん…に…ち…、は」

かすれそうな声で彼女は言った。

私も慌てて、

「こんにちは、黒川いろはです」

彼女はにこっと微笑むと、指先を出して、春雪に向かって動かした。

春雪も返事を手で返す。
指先の会話。

初めて見る手話だった。
春雪は一通り会話を終えると、

「彼女、真咲っていうんだ。いろはのことは俺から手紙で話してある。ずっと会ってみたい、って言ってたから、ちょうどよかったな」

春雪は笑った。

私は事態が飲み込めずに、

「あの、その」

言いにくくて、思わず口ごもる。

それを春雪は察して、

「真咲は火傷が原因でしゃべれない。顔のケロイドもそう」

「そうなんだ…」

「俺の義理のおじさんの娘なんだけど、大学のときに火事にあって」

「…」

「彼女はいろはの味方だから。俺たちのことも知ってる」

「そうなの?」

春雪の頭が縦に振れる。
「俺が通訳するから、いろは、自分のことを話してごらん。彼女、大学で心理学の勉強してたから、そういう話を聞くのにはなれてるんだ」

私は黙ってうなずいた。