後ろから声がした。

私は振り返る。

綺麗な身なりの、奥さまっぽい感じの女性が立っていた。

「あの、私、なんでここに…」

「覚えてないのね」

「はい」

「ある人が草むらで倒れているあなたを連れてきたの。軽い日射病みたいね」

「そうですか」

足元で何かが動いた。

わんわん。

人懐っこい鳴き声がする。

コーギー犬が長い胴をさらに伸ばしてこっちを見ていた。

「ちょっと待ってて、呼んでくるから」

誰を?主語は?

と内心突っ込みたかったけれど、私は黙っていた。

ハンモックから降りて、コーギー犬をなでてやる。

嬉しそうに私にとびついて来て、顔をなめた。


「お待たせ」

私はその女性の声に顔を上げる。

私の、大切な人。

いつも守ってくれる人。
愛してるなんかじゃ足りない人。

「ハル…!」

「いろは!」

なんだか少しメロドラマ的な再会になってしまったけれど、確かにそこには春雪がいたんだ。

「ハルぅ…」

私は泣きながら春雪に抱きついた。

ハル、ハル、ハル…。

何度も名前を呼んだ。

春雪は私の頭を優しく包み込んで、髪に手グシを通す。

優しい、手。