春雪はグレーのスーツを着て、手には鞄を持っていた。

「先生、今から職員室に行こうと思ってたんですけど」

すると、春雪は、にこっと笑い、

「案内してくれなくてもいいよ。もう自分で歩いたから」

「でも、岩沢先生に言われたんです」

「まぁ、それは適当に僕が話しておくよ」

そういうと、春雪は手招きをした。

私は首をかしげてから、近寄っていった。


「なんですか」

思わず声が裏返る。

春雪はいたずらっ子のような笑みを浮かべて、

「ちょっと行きたいところがあるんだ。付き合ってくれない?」

私は、餌を前にして喜びながら尻尾を振る、犬みたいだったと思う。

「まぁ、本当は教師がこういうことしたらいけないんだろうけど、もうすぐ兄妹になるんだし、別にいいよな」

胸がきゅんとなる。

もうすぐ、兄妹になる。
それは永遠に恋人という関係にはなれないことを意味する。

私は、春雪が、好きなの。

兄妹になんてならなくていい。

ただ、あなたに愛して欲しいだけなんだ。

でもそんな私の心を春雪は知るわけもなく、春雪は私に荷物をまとめるように言い、私たちは歩き出した。