「いろは、愛してるわ。大切な私の自慢の娘よ」
なんて言って抱きしめて欲しかった。

今となってはもう、叶わない夢なのだろうけれど。


そんなことを考えながらぼうっとしていると、名前を呼ばれた。

振り返ると、岩沢先生が小指で耳をほじくりながら、

「黒川、今日の放課後、暇か」

「えっ、先生?!もしかして私のこと誘惑してる?!」

岩沢はにやりと笑うと、
「俺じゃないよ。昨日、お前、井上先生に学校案内してやらないで帰ったろ」

「はぁ」

「だから今日、放課後案内してやってくれ」

内心、春雪と二人きりになって、学校を案内するなんて、きっと楽しいだろうな、と思っていた。
でも昨日の家での一件もあったので、会いたくない気持ちもあった。

「わかりました。でも私自身、この学校のこと、よく知らないんですけど」

「はぁ??お前、もう2年だろ。何年この学校通ってんだ」

「だから、1年ちょっと」

岩沢先生は、はぁ、っと大きなため息をつき、

「まぁ、いい。入学希望者向けの学校ガイドがあるからそれでも見て案内してやれ」

「はーい」

私に向かって、ガイドを放り投げると、岩沢先生はこんどは鼻をほじった。