「わかった。一人暮らししてみなさい。その代わり、高校にはちゃんと行くこと。家賃は父さんたちが払ってあげるけど、生活費は自分でアルバイトをして稼ぎなさい」

「わかりました」

母親のほうを見てから、二人の姉を見て、私はゆっくり頭を下げた。

「今まで、ありがとうございました」

そして私はスカートを翻して病室を後にした。


ナースステーションの前を通り過ぎようとしたときだった。

ナースたちのひそひそと話す声が聞こえてきた。
私は聞くつもりはなかったのだけれど、思わず足がとまり、聞き耳を立ててしまった。

「さっき、運ばれてきた黒川さん、末期の胃癌だって」

「すごい吐血だったもんね」

「どうするのかしら、3人も娘さんがいるのに」
「家族は病気のこと知っているのかしら」

「先生はこれから話す、って言ってたわよ」

「これから先はきっと大変よね」


胃ガン?

しかも、末期の?

私の、お父さんが?

私は手に持っていた携帯電話を落としそうになって慌てて我に返った。

もう、いい。

あんな家族、バラバラになれば…。

そう頭で思っていたはずなのに、心のほうはすごく動揺していて。