顔に白い布が被せられていなかったことに少し安心して、そばに寄った。
「お父さん」

私はベッドに横たわる父親に声をかけた。

父親は私を見て弱々しく微笑んだ。

それだけでなぜか涙が出てきそうになった。

「いろは、ごめんな、心配したよな。お父さん、ちょっと具合が悪くなってさ」

そばに寄った私の頭を撫でながら父親は言った。
母親とあきは姉ちゃん、かずは姉ちゃんは、口々に言った。

「いろは、お父さんが苦しい思いをして頑張ってたのに、何でこんなに来るのが遅くなったのよ」
「そうよ、どうせ男でも家に連れ込んでたんじゃないの」

「言えてる。いろはは人の婚約者に手を出すようなサイテーな妹だもん」
すると、父親は大きな声で3人に向かって諭すように言った。

「母さん、あきは、かずは。いろはが何かをした、って言うならお父さんだって怒る。だけど、いろははいつだって家族のストレスのはけ口にされて、縮こまって生きてきたんだ。そんないろはを守ってやらなかった父さんにこんなことを言う資格なんてないかもしれないけど、いろはだって一人の人間なんだぞ。私の大事な娘だ。かけがえのない、大事な大事な末娘なんだ」