「ずっと、ずっとそうしたかった。ハルがお姉ちゃんの婚約者だ、ってわかってからも、ずっと。私をはじめて一人の女性としてみてくれたのが、春雪だった。だから、ハル。ハルと一つになりたい」

春雪は少しの間を置いてから、

「本当は」

「うん」

「ずっと俺もいろはを抱きたい、って思ってた。すっげぇ愛しくて、可愛くて、大切で。でもだからこそ我慢しなくちゃ、って思ってた。でも、もう、いいよな」

「…うん。ハル、私を抱いて?」

春雪は黙ってうなずくと、私を抱いたまま、靴を脱ぎ、静かに階段を上がった。


窓の外では相変わらず雷が鳴っていた。

階段をのぼりながら私を抱きかかえた春雪の凛とした横顔を見つめていたら、涙が出てきた。

初めて、春雪と出会った、小学生のときからずっと私は孤独だった。

親に愛されている、と思ったことは一度だってない。

風邪を引いたときだって。

熱をだしたときだって。
怪我をしたときだって。
ケンカをしたときだって。


思い出すのは冷めたような家族の笑う顔。


ずっと、思い描いていた。

愛のある、温かい家族を。

幸せで、満ち足りた家庭を。