「おかえりなさい」
中にはスーツ姿のままのお父さんがキャリーケースを広げていた。
キャリーケースの周りには着替えや資料が乱雑に置いてある。
「あぁ、居たのか。ちょうどよかった。明日からまた出張なんだ。食事代はそこに置いといたから」
テーブルの上の茶封筒。
お父さんは定期的に食事代と言ってお金を置いていく。
「お腹すいてない?なんか作ろっか」
「悪いが、明日の朝も早いしこれが終わったら休むから大丈夫だ」
「そ...か」
ご飯、食べながら久々にゆっくり話でもしたかったのに。
もうどのくらい、お父さんとご飯食べてないんだろう。
どのくらいこの冷たいリビングで1人でご飯を食べたんだろう。
早く言わなくちゃ。
進路希望調査の事。
「あのさ、話があるんだけど」
「何だ?」
そう言ってもお父さんはこっちを向かずに出張の準備を続ける。
「明後日までに進路希望調査表ってのを出さなきゃいけなくて、親のサインが必要なの!」
ねぇお願い...
お父さん、こっちを向いて。