大き目を見開く私に、ほんのり嬉しそうに微笑んだ彼。
ドキンッーー。
胸が、跳ねるのが、わかる。
「大きな声で歌って」
「ええっと……」
戸惑う私をよそに、ギターを抱える彼はもう一度その曲のイントロを奏ではじめる。
本当に、歌うの……?
彼と目があって、戸惑いながらも息を吸った。
音楽は小さい頃から大好きだった。
歌うのも、聴くのも。
奏でることは、したことがないから、できないけれど。
中学にあがって、本当は吹奏楽部に入りたかったんだけど、家のこともあったから諦めたんだ。
彼の弾くギターに合わせて歌う。
真夜中の駅前。
誰もいない。
この世界には私たちふたりしかいないんじゃないかと錯角してしまう。
「やべぇ……」
「……?」
歌い終わった途端、彼が私のことを真っ直ぐ見つめて言った。
「天才だな、お前」