しかし、家に帰っても、すぐにゆっくりできるわけではなかった。

「ん…?」

ポケットが震える。スマホを取り出すと、そこには「鷹夏真一(タカナツ・シンイチ)」という文字が浮かび上がっていた。何のことはない、心配性のお父さんが、狙ったようなタイミングで電話をしてきたのだ。

「もしもし、お父さん?」
「ああ。…どうだ、学校は?」
「お父さん、心配しすぎだって。私がそれなりに耐久性あるの、知ってるでしょ?」

もちろん、大ウソである。お父さんが電話をかけてきてこういう話をすると、色んなことを根掘り葉掘り聞かれるのだ。だから、心配することはないと言っておかないと電話が終わらないわけで…。

「一人暮らしはどうだ? 慣れたか?」

…言っても言わなくても、電話は終わらなかったらしい…。

「えっと、そのことなんだけど、色々と複雑で…」

私は、鴫城くんや鶴花さんとの一連の話や繋がりを話した。お父さんは適度に相槌を打っていたが、声の調子からするとあまり状況が読めていないように思われた。…私が読めていないのだから、当然か…。

「よく分からんが…まあ、頑張れよ」
「うん。お父さんも、頑張ってよね。これから一人暮らしなんだから」
「…それくらい覚悟の上だ。じゃあな」

話は十五年ほど前に遡る。

私の母は、ある日交通事故で亡くなった。現場にはいなかったのか、あるいは現場での光景を覚えていないのか、それすらも分からないほどに詳しく知らないのだが、横断歩道を渡っていたところをトラックにはねられ、即死だったという。

それ以来、お父さんは私を男手ひとつで育ててきた。だから私が家から出た今、お父さんは一人暮らし。

心配性なのも、それが原因だ。だから、強く言えないのだ。