「失礼します」

ドアが開く。入って来たのは、背の高いイケメンくんと、いかにもなイマドキ女子だった。

「…って、一夜!」

そのイケメンくんの方を見るなり、鴫城先輩がイケメンくんに駆け寄った。

「一夜、始業式から何やってるのよ…」
「あの、お知り合いなんですか?」
「うん。この子、私の息子」
「…えっ?」
「で、隣のこのカワイイ子が、息子の幼なじみ」
「…えぇぇっ!?」

こんなことって、本当にあるんだ…。もはや天文学的数字の確率と言えるだろう。仕事上の先輩の息子とその幼なじみが、私の勤める学校にいるなんて…。

「で、どうしたの?」
「聞いて下さいよ、先生。一夜…」
「いいって。俺から話すから」

幼なじみちゃんの言葉を遮り、鴫城先輩の息子くんが話し始める。

「そこの階段で、結構強めに足ぐねった」
「それで?」
「…いや、それだけ」
「そんなの気合で治しなさいよ…。養護教員の私が言えることじゃないけどさ。日向ちゃん、氷水、袋に入れて持ってきて。タオルも忘れずにね」
「あ、はい」

冷凍庫の氷をビニール袋に入れ、そして水道水を注ぐ。最後に薄いタオルでくるめば、お手製即席保冷材の完成だ。

「ありがと、日向ちゃん」

鴫城先輩は私から即席保冷材を受け取ると、息子くんに言った。

「戻れるようだったら、早く教室に戻りなさい」
「…割とキツそうなんだけどな…。結構腫れてるし」
「そういうのは先に言いなさいよ…。じゃあ、ひとまずここで休むしかないわね。来室証紙、書いて」
「言われなくても分かってるって…」