「なっ…別にいいだろ? 俺が食うだけなんだし…」
「そうじゃないって。雪月ちゃんが言いたいのは…」
「わ~! 止めて下さいよ~!」

先輩が何を言おうとしていたのかは分からないが、鶴花さんは慌てて先輩の口を塞ごうと、持っているドーナツを先輩の口の中に押し込んだ。

「もご、もごご…」
「いいのかよ、雪月? 一応先生だからな?」
「幼なじみのよしみってことで、うまく丸めておいてよ。ね? 先生も、よろしくお願いします」

鶴花さんが私の方を見る。

「私に言われても…」

先輩を見ると、先輩は「ちょっと待って」と言わんばかりに手を前に出していた。しばらく見守っていると、口の中のドーナツを全て、とは言わずとも喋れる程度にまで咀嚼した先輩が聞き取りにくい声でこう言った。

「大丈夫よ。私、怒ってないから。雪月ちゃんのこういう所、昔から思ってたけど可愛くて、個人的には好きだし」
「全く…ホント、雪月のこと大好きだよな…」
「だって、こんな優しい子いないじゃない。一夜のこと、すごく気にかけてくれてるんだよ?」
「そ、そんなこと…」

鶴花さんが頬を赤らめる。…いい雰囲気だなと思っていたが、すぐに、ある切ない感情が私の心に見えてきた。

鶴花さんは、私よりも先を行っている。

幼なじみだから当たり前のことではあるんだろうけど、鶴花さんは私よりもずっと、一夜くんに近い存在だ。

そして一夜くんも、私なんかより、きっと鶴花さんのことを大切に思っている…。

胸が再び、だけど今度は青っぽく、締め付けられた。