その日の帰りから、私は少し気を使うようになった。

「…よし…」

近くに一夜くんがいないのを確認し、そそくさと校門を出る。…もし会ったりなんかしたら、相当気まずい。

「そんなに用心しなくてもいいじゃない。別にまだ何もしてないんでしょ?」

後ろからの声に、飛び上がりそうなほど驚く。

「うわわわっ! …って、先輩…。後ろからはやめて下さいよ。しかもこの状況で…」
「あら、まさか逆だった?」
「逆って?」
「一夜がいないのを見つけて、じゃなくて、一夜に会いに行く…みたいな」
「そ、そうじゃないです!」

だけど、そうだったらいいのに…とも思ってしまう自分が確かにいた。

「さてと、早く帰らないと」
「先輩、何か用事でもあるんですか?」
「日向ちゃんに言ってるのよ」
「えっ?」

先輩が後ろを軽く指さす。振り向くと、そこには一夜くんと鶴花さんがいた。

「ちょっ…先輩、連れてきたんですか!?」
「まさか。そんなことしないわよ。母親の勘ってやつで分かっただけ」
「だとしても…」

さっきまでのこっそりとした努力が水の泡となってしまった私は、ただ三人の顔を、ボーっと眺めているしかなかった。

「…先生、起きてますか?」

鶴花さんが顔の前で手を振る。

「あ、うん、大丈夫…」

…じゃないんだけどね。