「…ちょっと、今の…」
「鴫城先生、聞きましたよね…?」

目を合わせていいような、合わせたらいけないような…。ただし先輩と鶴花さんは、しっかりと目を見合わせていた。

「…まさか、日向ちゃん、恋煩いの相手って…」
「ち、違いますよ!」

慌てて否定するが、もう遅かったようで…。

「ま、まぁ、校則では禁止されてるけど、バレなきゃ大丈夫だと思うわよ…ね、雪月ちゃん?」
「え、ええ、学校外でだけならバレないと思いますし…」
「いえ、ですから…」
「そ、そうだ、私これからちょっと用事があるから、日向ちゃん、ちょっとの間頼むわね~」
「わ、私、ちょっとトイレ行ってきます!」

…明らかにこのシチュエーションを作ろうとしたよね、あの二人…。

「…って、一夜くん!」

状況が整理できたところで、一夜くんの注意を私に引きつける。

「どうしたんですか、日向先生?」
「どうしたんですか、じゃないって! 何でその呼び方しちゃったのよ!? おかげで変な空気になっちゃったじゃない…」

しかし、その後に一夜くんの口から出てきた言葉は、私にとってはあまりにも意外すぎる言葉だった。

「…ダメですか、俺と先生が、そんな風に思われるの」
「えっ…?」

そして一夜くんは、私を自分と壁ではさみ、右腕を壁に突き付けた。…アレだ…。

「…何よ…」

一夜くんは私の目を見たまま、左手で私のあごに触れ、少し持ちあげた。

「キーン、コーン、カーン、コーン」

ここでチャイムが鳴ったのを、私は救われたと呼んだらいいのか、それとも邪魔と呼んだら言ったらいいのか…。答えは出なかった。